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5 Jul 2020
シェイクスピアの喜劇  「真夏の夜の夢」

毎年夏のシーズンになりますとイギリスではお城やマナーハウス、或いは大きな公園の一部に野外劇場が出来てシェイクスピアの劇をはじめ色々な作家の劇やオペラを上演しています。残念ながら今年の夏は開演出来ないと思います。

 

野外劇場での観劇は趣がありますが、一日に四季のあるイギリスでは夏とはいえ野外劇場の切符を前もって買うのはとても心配です。現に何年か前、ウエストサセックスにある古いお城、アランデル城の野外劇場で「真夏の夜の夢」を観たことがありますが途中で雨に降られ大変な目に会いました。しかしこれもイギリスならではの体験かも知れません。

 

ウィリアム・シェイクスピアはイギリスのルネッサンス時代を代表する作家で、彼の戯曲は史劇、喜劇、悲劇に分かれており、殆どが多くの国で翻訳され世界中の人々に親しまれてきました。喜劇の中でも人気のある原題’Midsummer Night Dream’は1595年~96年にかけて書かれ、日本語で「真夏の夜の夢」と訳されています。確かにMidsummer Nightの日本語訳は盛夏なのですが、Midsummer Night は聖ヨハネをお祝いするMidsummer Day (6月24日)の前夜のことなので、正確な訳は「真夏」でなく「夏の夜の夢」だともいわれています。更にこの「真夏の夜の夢」は劇だけでなくオペラ、バレエとしても上演されています。

 

物語はギリシャ、アテネのお城と森を背景に3つの筋からなっています。まずはアテネの大公シーシアスとアマゾンの女王ヒポリタ、2組の恋人達、ハーミアとライサンダー、ヘレナとデメトリアスです。次は妖精オベロンと姫のテイターニア。そして大公の結婚式の余興の為に森の中で練習している職人達です。当時アテネの法律では父親が決めた結婚に反対する娘は死刑になるか、一生独身で女神ダイアナに仕えるかを選ばなくてはなりませんでした。この劇は父親イージアスが決めた相手デメトリアスを娘のハーミアが拒否したことから物語が展開していきます。大公シーシアスと女王ヒポリタとの結婚式の寸前に、父親が娘を死刑にしてほしいと大公に頼みに行きます。大公は死刑を選ぶかデメトリアスと結婚するかを4日間で決めることをハーミアに言い渡します。ハーミアは恋人ライサンダーと駆け落ちして森の中に入って行くことを決め、親友のヘレナに打ち明けます。ヘレナからこのことを聞いたデメトリアスは二人を追って森の中へと走り、ヘレナも恋人デメトリアスの跡を追って森の中へと入って行きます。しかし森の中には恋人達でなく妖精オベロンと姫テイターニア、結婚式の余興の練習に忙しい職人達がいました。もともと仲の悪いオベロンと姫は森の中でも言い争い、怒ったオペロンは悪戯好きなバックを呼び、目が覚めて最初に見た人を好きになるという浮気草の汁を姫の目に塗らせます。一方オベロンはデメトリアスを追うヘレナが気の毒になり同じ浮気草の汁をデメトリアスの目に塗ることをパックに命じますが間違えてライサンダーの目に塗ってしまいます。また悪戯好きなパックは熱心に練習しているボトムを見てロバの頭を乗せロバの化け物に変えてしまいます。しかし浮気草の汁でかかった魔法も最後には取り除かれ、オベロンと姫との仲は元に戻り、混乱した2組の恋人達も円満に収まり、そして職人達も無事に結婚式で余興をすることが出来ました。大公シーシアスと女王ヒポリタ、ハーミアとライサンダー、ヘレナとデメトリアスの3組が同じ日に結婚式をあげた後、それぞれの寝室に入って行きますと沢山の妖精達が出場し、新しい3組の夫婦の将来を祝って歌と踊りに興じます。妖精達が去った暗い広間には「真夏の夜の夢」の森の中のように神秘で不思議な雰囲気が漂います。一人残ったパックは’So, Good night unto you, give me your hands, if we be friends. And Robin restore amends.’ と聴衆に別れを告げて幕が降ります。しかしこの劇の最後のシーンはプロダクションによって大分違います。

 

「真夏の夜の夢」は非常にユーモアに富み、16世紀の男性支配社会、美しい男女の恋と空想の夢を描いた喜劇です。恋は常に人を盲目にしがちなので、恋の愚かさ、気まぐれさ、不合理さによって出来る関係を豊かな想像力で楽しい笑いに満ちた劇に作り上げています。物語の途中では2組のカップルに悲劇や混乱が起こりますが、恋、混乱、結婚と最後はハッピーエンドに終わるのがシェイクスピアの喜劇の特徴と言われております。またこの物語が書かれた少し前の1591年〜94年は黒死病が流行し、多くの人が死ぬ暗い時代だったので、若い男女達の明るくて面白いロマンチックな恋の劇をロンドン市民に観てもらい、市民の暗い気持ちを明るくすることが出来るようにとの願いを込めて、シェイクスピアは想像力逞しく書いたと言われています。喜劇に欠かせないのはパック(妖精)でこの劇の中でも大きな役割を果たしています。パックはイギリスの妖精、精霊、フェアリーのことで、時には毛深くて小さい人間の姿になったり、時には半人半獣の姿になったり妖精は変身することが出来るといわれています。イギリスの昔話ではパックは意地悪で、悪戯好きで、気まぐれな小妖精、或いは小鬼として扱われ16〜17世紀にはイギリスの田舎に出没したと信じられていました。またバレエで観る透き通った洋服を着た半裸の妖精達は美しく、まさに夢の世界に誘ってくれそうですが、もともとは小川、谷間や丘などに棲み、魔術を使って人間にいたずらをする恐ろしい悪魔であるというイメージだったそうです。この劇の中でも妖精パックは人間に魔術をかけ悪戯をしましたが、それを元に戻すという良いこともしています。「真夏の夜の夢」は観ている観客達を非現実的な夢の世界アテネの森へと引き込んで行く恋の夢物語です。

 

ウィリアム・シェイクスピアはイギリスの黄金時代と言われたエリザベス1世の時代(1558-1603)、1564年4月にストラットフォード・アポン・エイヴオンで生まれました。生まれた正確な日は不明ですが、洗礼を受けた日から3日前の23日が一般にお誕生日とされています。革職人でもあり一時は町長にもなった父親と母親メアリーのもとで裕福な家庭に育ちました。エイヴオン川のほとりのストラットフォードには当時緑豊かな森林が多く、子供の頃森の中を駆け巡り楽しい田園生活を送った経験が後世の作品に大きな影響を与えたといわれています。5才から町のグラマースクールに通いラテン語と文学を学んだようですが在籍証明は残っておらず、また家庭が経済困難に直面して中退したか、その後高等教育を受けたかは不明だそうです。彼は1582年、18才の時26才のアン・ハサウェイと結婚し3人の子供に恵まれました。しかし結婚後1585年から1592年までの7年間は何をしていたのか不明で「失われた年月」と記録されています。その間に俳優として働いていた事は確かで、その頃のロンドンの劇場の跡には今でも彼の活躍を称えるブルーのプラークが付いています。1594年以降、彼は「宮内大臣座」の為だけに俳優として働きますが1599年テムズ川の辺りに彼自身の「グローブ座」を建て、それ以後彼の作品はこの新しい野外円形劇場で催されることになりました。彼はエリザベス1世と次のジェームス1世の寵愛を受け、しばしば宮廷に招かれて上演していました。この時期は彼の劇作家、俳優としての生涯で最も名声を上げた時で、経済的にも豊かになりロンドンとストラットフォードに家を買っています。しかし1613年、「ヘンリー8世」を上演中大砲がグローブ座の天井の茅葺に点火し全焼するという悲劇に遭いました。それをきっかけに彼は故郷ストラットフォードに引退し演劇界からも身を引くようになりました。そして1616年4月23日お誕生日と同じ日に52才で亡くなりました。彼の遺体は町のホーリー・トリニティー教会に埋葬されています。ウエストミンスター寺院の中の'Poets’ Corner’にある彼の記念碑をご覧になった方も多いかと思います。1613年に焼失した「グローブ座」は翌年同じ場所に再建されましたが1640年代の清教徒革命で閉鎖され、1644年には完全に壊され姿を消しました。

 

現在のグローブ座を再建させたのはアメリカの俳優、サム・ワナメーカーですが、彼は23年かけて資金を集め1997年に再建の夢を実現しました。しかし残念ながら彼自身は完成の時を待たずこの世を去ってしまいました。それ以降娘のゾエ・ワナメーカーが父親の後を継ぎグローブ座をまもり、また彼女自身もロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの女優として活躍しています。現在でもエリザベス朝の英語で上演している世界的に有名なロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの劇団は彼の故郷ストラットフォードを本拠地にしておりますが、ロンドンのグローブ座でもエリザベス朝時代の野外円形劇場で催された当時を想像しながら彼の作品を楽しむことが出来ます。

 

      

 

‘All the world’s a stage, All men and women merely  players’ (As you like it.)という名セリフを生み出したシェイクスピアは沢山の著作を後世に残した偉大な人物として今日に至るまで世界中の人々に親しまれています。

 


 

* YOUTUBEにアクセスしていただき、A Midsummer Night's Dream で検索していただくと以下のような数々の素晴らしい録画をご覧いただくことができます

 

ITV Play of the Week (February 1965)

https://www.youtube.com/watch?v=Rx2lQ-iMqMA

 

National Theatre (Live clip 2019)  * 短いライブクリップが連続してご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=mBuHVFh2crU&list=PLwfF5YMcAHwXfJaI1GsMCD3dI_NduoCNH

 

 同 上 (Live clip 2016) 

https://www.youtube.com/watch?v=PRBR4bv98dQ&list=PLwfF5YMcAHwXfJaI1GsMCD3dI_NduoCNH&index=7

 

 Fandango Movieclips (1935)  *  短いムービークリップが連続してご覧いただけます。

https://www.youtube.com/watch?v=U0HHhK_MrWg

 

Paris Opera Ballet (Manchad Abbagato Renavand 2017)  * Excerpts (抜粋)

https://www.youtube.com/watch?v=uBf7Q6X2FmE