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ヨーロッパ人に一番なじまれている花といったら間違いなくラベンダーでしょう。気付け薬などに利用され、薄紫色を表す際にも使われ、古くから童謡にも歌われてきましたが、香料業界でもおそらく最も用途の広い精油のひとつです。
長い間地中海地域に野生するラベンダーが利用されてきましたが、今日ではフランス、スペイン、イタリア、モロッコ、特にユーゴスラビアなどの広大な畑地で栽培されており、中でもイングリッシュラベンダーは土壌と気候によくマッチし、毎年イギリスのラベンダーファーム(*下記サイトをご覧ください)から世界一の精油が抽出される素晴らしい品種のラベンダーが育成され高い品質を誇っています。中でもサリー州ミッチャムで産出されるイングリッシュラベンダーは特に有名で通称”ミッチャム”と呼ばれて重宝されています。
https://www.hitchinlavender.com
https://www.cotswoldlavender.co.uk
https://www.mayfieldlavender.com
このラベンダー、歴史をはるばる遡ると一説では古代ローマ人によって洗濯物やお風呂の香りとして大昔から使われていたようです(* ディオスコリデス(西暦40年)は著書『医薬品法医学概論』にこの植物を含め健康に役立つ植物を多数記載しています)。また語源は中世の頃に誕生した名称でイタリア語の動詞で“洗う”を意味するLaverを取り入れたとも考えられていますが、この通説を裏付ける歴史的証拠はなく、一般的に古代ギリシャ人・ローマ人はラベンダーを入浴に利用しなかったなどの異説もあり、作り話である可能性がある為、ラテン語のlivere と中世ラテン語Lavindula から推測し、「青みを帯びた、青みがかった」を意味するラテン語Livere に由来するという説も提示されています。
日本において、ラベンダーの初期の記述が見られるのは、江戸文政期の西洋薬物書で、「ラーヘンデル」「ラーヘンデル油」の名前で詳細な説明がされています。幕末期には一部ではありますが、ラベンダーの精油が輸入され、栽培も行われていたと考えられています。
昭和期には、香料の原料として北海道富良野地方などでさかんに栽培されて精油が生産され、1970年にピークとなったものの合成香料の台頭で衰退しましたが、現在では、富良野などでラベンダー畑が重要な観光資源となっており、また、精油を採るために真性ラベンダーや、スパイク・ラベンダー、ラバンジンなどが栽培され、精油は香料や香水の材料となり、アロマセラピー(芳香療法)等に利用されています。
はるか昔からラベンダーの抗菌作用は有名で、12世紀には聖ヒルデガルドは傷の治癒作用にラベンダーを勧めています。また精油には殺菌作用のほか、皮膚に湿布して火傷や虫さされ症状を緩和する働きなどもあるので僧院の薬草園では特によく栽培されていましたが、本格的に薬として活躍するよになったのは18世紀(1720年頃)、フランスのマルセイユ周辺で発生した疫病”黒死病”(俗にいう”ペスト”)の治療薬としてラベンダーが貢献したことによります。当時のマルセイユの人口9万人のうち5万人がこの疫病で死亡したと記録されていますが、周辺の地域を含めて10万人の人々が犠牲になりました。この時グラースではなめし皮の手袋に香料をつけて販売する産業が盛んで、その主原料としてラベンダーオイルが使われていたのです。グラースはマルセイユから比較的近いところにある街ですがペストの被害はほとんどありませんでした。この為、ラベンダー精油がペストに効果があるという噂が一気に広まり香り付き手袋とともに大変よく売れたということです。実際恐ろしい疫病の流行は2年ほどで収束しましたが、その薬効は他の国々にも伝わりました。おそらくラベンダーは疫病を媒介する蚤の駆除に効果があったものと考えられています。ちなみにサシェと呼ばれる匂い袋はダニとシラミよけになる為、今でもヨーロッパではタンスの下に入れる等して古くからの習慣として残っていますが、この時に良い香りも一緒に移るので芳香剤としても喜ばれています。
話がちょっと前後しますが本格的にラベンダーの蒸留が始まったのは13世紀に入ってからです。もともと地中海沿岸地域の高地に自生していて、暑さに弱いけれど香りが強く花も美しい真性ラベンダー(イングリッシュラベンダー,コモンラベンダー。背丈は低く、花は綺麗な紫が一般的ですが白やピンクの場合もあります)と、低地に生し、暑さに強くタフですが香りはあまりよくないスパイクラベンダー(イタリアン・ラベンダー、ストエカス・ラベンダー、スパニッシュ・ラベンダー)の両方から良い性質が遺伝した交配種のラバンディン(真正ラベンダーによく似ていますが、色が少し淡い )が発見されたのはそれよりかなり遅れて1925年頃でした。ラバンディンは真正ラベンダーよりも香りが樟脳のようにシャープで強く、もともとは真正ラベンダーの香りを補強するために使われていたので繊細さ、複雑さにかけ調香師にはそれほど好まれないのですがそれでもラベンダーよりも水蒸気蒸留で抽出される精油の収率が2倍程よく、比較的お手頃価格でラベンダーに似た香りを楽しめるので、近年栽培の規模は著しく拡大しています。
真性ラベンダー スパイクラベンダー
ラバンディン
毎年6月下旬から7月中旬になると、農家の人たちが成熟したラベンダーの花を鎌(もしくは機械)で刈りとるのですがこれは結構骨の折れる仕事で、大変な集中力と注意力を必要とします。こうして採集されたラベンダーは伝統的に、抽出の際には 蒸留の前日か、2日前にあらかじめ原料を乾燥させ水分を除去、その後容積300から3000リットルのアランビックと呼ばれる水蒸気蒸留器を使って精油が抽出されていましたが、1990年に『植物粉砕法』と呼ばれる蒸留法が新たに開発。この方法では原料をあらかじめ乾燥させる事なく、摘んだら時間をおかずにそのまま細かく刻んでボイラーに接続された移動式コンテナにそのまま入れれば良いので手間暇が省かれ生産高はかなり向上しました。100キロのラベンダーの花からおよそ1キロの精油が抽出、直ちに樽容器等に密閉され、品質を劣化させないように必ず冷暗所で保管され、出荷されます。
こうして生産されたラベンダーはイギリスではかつて主力製品であり、イングリッシュラベンダーは長らくフレグランスの女王で数々の優れた古典的作品を創り出してきましたが今から35年くらい前でしょうか、特にラバンディンの香りが清潔と同じ意味を持つようになり、石鹸(スーパーで手頃に入手できる“インペリアル”ブランドなどが典型的な例)やシェービングクリーム、洗剤などトイレタリー、ハウスホールド用品に用いるケースが増えてきました。その影響で香水、オードトワレなどのファインフレグランスにラベンダーを使おうとする傾向は顕著に減ったのですが、それでもラベンダーがすっかり姿を消したわけではなく、最近はラベンダーの持つ男性的な”野の香り”を想起させる独特のアロマティックノートにローズマリーなどのハーブノートや柑橘ノートなどを配合したフレッシュな感覚を持った現代的なフゼアコード(*注釈参照)を強調させたファイングレグランスが誕生しています。
* フゼアコード(ノート): フゼア調とも表記される。フゼアはフランス語でシダを表すフジェール(仏: Fougeres)の日本語読みであるがあくまでイメージであり、フゼア調の香水は必ずしもシダ植物を使っているわけではない。1882年にHoubigant(ウビガン)社から発売された香水「Fougere Royale(フジェールロワイヤル)」が語源。具体的には. ラベンダーのクリアな香りと、樫の樹に生え土の香りのするオークモス、桜餅の葉を思わせるクマリン、ゼラニウム、ウッディ, ベルガモット等を基調とした伝統的な香調の名称のひとつ。
〜ラベンダーを含む代表的な香水〜
フジェール ロワイヤル ウビガン (1882年)
ジッキー ゲラン (1889年)
プール アン オム キャロン キャロン (1934年)
ムスターシュ ロシャス (1950年)
オード ダリ ダリ (1987年)
パコ パコ ラバンヌ (1996年)
イエローシー Mミカレフ (2006年)
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