News

3 Jun 2017
グラインドボーン音楽祭(Glyndebourne Festival Opera)

グラインドボーン音楽祭は英国の夏の風物詩であるカントリーハウスオペラの代表だ。ロンドンから南に車を走らせ2時間ほどのところにあるイースト・サセックス州の田舎町、ルイスのそばにあるマナーハウス、グラインドボーンの敷地内にあるオペラハウスで開催される。マナーハウスのオーナーであるガス・クリスティ氏が現在の音楽祭委員長だが、音楽祭の起源は、ガスの祖父にあたるジョン・クリスティ氏がソプラノ歌手の妻、オードリー・マイルドメイと共に始めたことにさかのぼる。二人は新婚旅行で行ったドイツのバイロイト音楽祭にアイディアを得て、本格的なオペラ祭をグラインドボーンの敷地内で始めようと試み、1934年に300人収容可能なオペラハウスを自宅の一角に建設した。バイロイトはワーグナーオペラで有名だが、グラインドボーンのこじんまりとしたオペラハウスには、むしろモーツァルトオペラがふさわしいと判断され、『フィガロの結婚』と『コジ・ファン・トゥッテ』が上演されたのが始まりだ。以来、毎年夏の間開催されてきた一方、その規模も拡大し、1994年には1200名収容できる音響効果の良いオペラハウスが建てられた。レパートリーも増え続け、慣例に従ってモーツアルトオペラはよく演じられるものの、今では色々な作曲家のオペラが毎夏6演目、時にはワーグナーオペラも上演される。

 

グラインドボーン音楽祭では、観客の服装は、イブニングドレスにブラックタイが慣習となっており、90分間の幕間に夕食を取る事がしきたりだ。そのため、多くの人々は田園地帯に広がる敷地の中で草を食む羊を見ながら、緑色に輝く芝生のじゅうたんの上でピクニックをする。ブランケットの上でバゲットのサンドイッチを頬張る者もあれば、持参したピクニックテーブルに銀のカトラリーを並べ、ろうそくを点し、氷の入ったバケツにシャンペンを冷やすなど、洗練されたピクニックを演出する者もあり、楽しみ方はいろいろだ。正装でピクニックするという一風変わった行為もグラインドボーンオペラの面白みの一役を担っている。ワインを飲みながら友人達と今見たばかりのオペラ談義に花を咲かせるのは何とも愉快なひと時だが、花咲き乱れる庭を散策しながらゆったりとした時の流れを感じるのも、またこの上なく贅沢な時間で、これら全てを包括したものがグラインドボーンオペラの醍醐味である。

 

グラインドボーンは今では世界中の既存の一流アーティストはもちろん才能ある若い歌手や監督達をもひきつけるオペラハウスとして世界的にも高水準の独創的なオペラを生み出している。この背景にはグラインドボーン・オペラの運営が、全て有志からの寄付金だけで補われていることにある。政府からの補助金に依存しない独立自尊の精神があるからこそ、新しい演目や作品を、独自のスタイルで創造することに果敢に挑戦でき、それがグラインドボーンオペラの芸術水準を高めることに繋がっているのだろう。

 

さて、今年はバロックオペラの先駆者フランチェスコ・カヴァッリの英国では初上演のオペラ『ヒペルメストラ』とブレット・ディーン作曲の『ハムレット』という世界初上演オペラにチャレンジしている。加えて、過去のグラインドボーンオペラの人気作品のリバイバルで、ジュゼッペ・ヴェルディの『椿姫』とリヒャルト・ストラウスの『ナクソス島のアリアドネ』とガエターノ・ドニゼッティの『ドン・パスクワーレ』、そしてモーツァルトオペラは『皇帝ティートの慈悲』の新しいプロダクションが上演される。先日見た『ヒペルメストラ』はまあまあの出来と言ったところだが、これから『ハムレット』、『皇帝ティートの慈悲』の鑑賞を控え今から心躍らせている。

 

英国のカントリーハウス・オペラは、最近では数が増えグラインドボーンの他にもガーシントン、グレンジ・パーク、アイフォード、ネヴィル・ホルトなどがあり、それぞれの庭園、マナーハウス、劇場が独特の味を醸し出し、心豊かで優雅な時間を演出してくれる。オペラ好きの私はそのどれにも愛着を持っているが、初めてカントリーハウスを体験する場合はまずは伝統あるグラインドボーンで英国独特の夏のオペラを味わっていただきたい。

 

            

©Sam Stephenson

 

          

 ©Sam Stephenson 

 

 

グラインドボーン音楽祭(Glyndebourne Festival Opera)

開催期間:201720日~27

http://www.glyndebourne.com/tickets-and-whats-on/our-seasons/festival-2017/