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5 Apr 2017
北斎展「北斎-大波の彼方へ」  Hokusai : beyond the Great Wave

大英博物館(The British Museumは5月25日から8月13日まで江戸時代後期の稀代の浮世絵師、葛飾北斎(1760-1849年)の晩年の作品に焦点を当てた特別展「北斎-大波の彼方へ」を開催。

ゴッホやモネに影響を与えた、代表作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」は「The Great Wave」として、世界で最も知られる作品の一つであり、今回の展覧会のメイン作品でもある。

『富嶽三十六景』の作品はどれもベロ藍(プルシャンブルー)とよばれる色がとても美しく、当時の海外の芸術家たちを驚愕させた。この色使いは“Hokusai and the Blue Revolution(青の革命)”とも呼ばれており、鑑賞時にはぜひ注目していただきたいポイントの一つである。

              

                          神奈川沖浪裏                                           凱風快晴

今回は「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をはじめ「凱風快晴」(通称・赤富士)、オランダ・ライデンの国立民族学博物館所蔵の肉筆画のほか、長野県小布施町の「北斎館」から祭り屋台の天井絵2点も展示され、計160点が展示されることになっている。

本展覧会では、肉筆画を中心に北斎の還暦以降の30年間に焦点を当て、北斎が90歳(満88歳)まで描き続ける中で追い求めた世界に迫っている。

 

晩年の北斎

北斎芸術の頂点は70歳を過ぎて刊行された『富嶽三十六景』。これは50代前半に初めて旅に出た際に、各地から眺めた霊峰・富士にいたく感動し、その後何年も構図を練りに練って、あらゆる角度から富士を描き切ったものである。画中のどこに富士を配置すべきか計算し尽くされ、荒れ狂う波や鳥居の奥、時には桶の中から富士が覗くこともあり、まるで富士を中心に宇宙が広がっているように描いている。同時に、作中には富士の他にも庶民の生活が丁寧に描かれ、江戸っ子は富士と自分たちのツーショットに歓喜し、“北斎と言えば富士、富士と言えば北斎”と称賛した。

その後も北斎は富士を描き続け、74歳で『富嶽百景』を完成させる。

そのあとがきにこう寄せた---「私は6歳の頃から、ものの姿を絵に写してきた。50歳の頃からは随分たくさんの絵や本を出したが、よく考えてみると、70歳までに描いたものには、ろくな絵はない。73歳になってどうやら、鳥やけだものや、虫や魚の本当の形とか、草木の生きている姿とかが分かってきた。だから80歳になるとずっと進歩し、90歳になったらいっそう奥まで見極めることができ、100歳になれば思い通りに描けるだろうし、110歳になったらどんなものも生きているように描けるようになろう。どうぞ長生きされて、この私の言葉が嘘でないことを確かめて頂きたいものである」

だが『富嶽百景』を刊行した頃は、人々の興味は30代の若い天才絵師、歌川広重の風景画に移っていた。北斎の人気には陰りが見え、次第に借金が増えていく。そこへ天保の大飢饉が起こり、世間はもう浮世絵どころではなくなっていった。老いた北斎は最初の妻、2度目の妻、長女にも先立たれ、孫娘と2人で窮乏生活を送る。79歳の時には火災にあい、まだ勝川春章の門下だった10代の頃から70年も描き溜めてきた全ての写生帳を失う悲劇に遭遇する。この時北斎は一本の絵筆を握り締め「だが、わたしにはまだこの筆が残っている」と気丈に語ったという。

※83歳の時の住所録では「住所不定」扱いになっている。

この後、火災の教訓からか、北斎は自分が培った画法を後世の若い画家に伝える為、絵の具の使い方や遠近法についてまとめた『絵本彩色通』や手本集『初心画鑑』を描き残した。この時すでに87歳。なおも、弟子が長旅をする時は、現地の特産品や魚介の写生を依頼するなど、北斎の絵に対する執念は衰えなかった。1849年4月18日、浅草の聖天町・遍照院(現浅草六丁目)境内の長屋で病み、生を終える。享年88歳。死を前にした北斎は「せめてもう10年、いや、あと5年でもいい、生きることができたら、必ずやまさに本物といえる画工になり得たであろう」と嘆いた。

 

現状につねに満足せず、引っ越し93回、改名すること30回。 生涯現役として描いた絵は3万点。

 「世界第一の画工になる」と本気で宣言し、80歳を越えても、「猫一匹も描けない。意のままにならない」と、悔し泣きをした老人。それが葛飾北斎であった。

 

『富士越龍図』

左は雄大な富士に、黒雲とともに龍が昇天する図柄である。   全体に墨絵の筆致で描かれ、北斎独特の幾何学的山容の富士、雲を呼び昇天する龍に自らをなぞらえる、北斎最晩年の心象と見ることも可能な一枚である。

この絵は、落款に出生の宝暦10年と共に嘉永二己酉年正月辰ノ日と記されており、絶筆に極めて近い制作になるものとしても注目されている。

 

最後の最後まで描くことに執着し、生涯を終えた北斎が後世に与えた影響は凄まじい。日本のみならず世界でも注目度の高い北斎の作品は今もなお、衰えることなく斬新で力強い。

そんな彼の作品は2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控え、世界中で日本文化への関心が高まる中、2019年度から新パスポート(表紙は変更しないが、査証のページに「富嶽三十六景」をあしらい、ページごとに違うデザインが印刷)に起用されることが決まっている。10年用が北斎の24作品、5年用が16作品を採用されることになっている。外務省によると、絵が盛り込まれたのは1866年にパスポートが発行されて以来初めてのこと。

北斎は今、日本を象徴する存在になりつつあるといえる。

 

皆様もぜひこの機会に、ロンドンで開催される北斎展を新たな視点で堪能してみてはいかがでしょうか。日本で鑑賞するのとは違った発見があるかもしれません。

 

北斎展「北斎-大波の彼方へ」   Hokusai  beyond the Great Wave

The British Museum(大英博物館)にて

2017年5月25日(木)~8月13日(日)  ※Closed 2017年7月3~6日

チケット:大人 £12、学生 無料